すれ違う日々

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怒鳴った途端に茜の体がびくつく。 しまった…。 そう思った時にはすでに遅かった。 じわじわと茜の瞳が潤んでいき、瞬きでもしようものなら大粒の涙がこぼれ落ちそうだ。 「はぁ…」 小さくため息をつき。 俺は茜に向き直る。 「すまない、少しきつく言い過ぎた。」 言うと、茜はついに涙を零し俺を見上げた。 「旦那様っ…」 呼ばれたかと思えば、次の瞬間には茜が俺の胸に抱きついてくる。 「っ!?」 正直遊里以外に触れられるのすら不快なのだが、仕方なく抵抗はしなかった。 ……遊里…。 遊里の傷ついたような顔が脳裏をよぎる。 すぐにでも追いかけて誤解をときたい。 遊里を抱きしめて…あの柔らかい髪に触れたい。 考えれば考える程に胸が熱くなった。 コンコン。 ようやく泣き止んだ茜を引き剥がし、俺は遊里の部屋のドアを叩いた。 「……」 しかし反応はない。 「遊里。いるんだろう?」 声をかけても物音すら聞こえてこなかった。 「旦那様、そろそろ出社なさらないと…」 急に茜に後ろから声をかけられ驚きつつ、後ろ髪を引かれる思いで歩き出す。 「…海斗のバカ…」 その時かすかに声がした。 遊里…? 「茜、今、遊里の声が…」 「?いいえ旦那様。何も…聞こえませんでしたよ。」 笑う茜に、俺は「そうか…」と呟き家を出た。
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