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海斗の足音が遠ざかっていく。
小さく呟いた声も、海斗には聞こえていないようだった。
なんで…?
無理やりにでも部屋に入って言い訳すればいいじゃない。
それとも言い訳する時間すら惜しいの?
茜さんと海斗の唇が重なっているのを見た時。
血の気が一気に引いていくのを感じた。
なのに海斗はすぐに追いかけてきてもくれなかったのだ。
本当はすぐに追いかけて、抱きしめて欲しかったのに。
あれが何かの見間違いであってくれたなら…。
私意外に触れられるのが嫌だと言っていた海斗が、なぜ茜さんを拒まないの?
もうこれはあてつけなんかじゃない。
海斗…もしかして海斗は茜さんを…。
そう思うと涙が溢れてくる。
「海斗っ…」
それから、私達は屋敷内で会う事も、口をきく事もなくなった。
私が避けたからだ。
……顔を合わせたら…海斗に別れを告げられるんじゃないか。
茜さんを好きになったと…。
それだけは耐えられない。
避ける事が解決に繋がらないのは分かっていた。
だけど、勇気が出ないのだ。
そんな私に、拓海君は毎日新しい花を持ってきてくれた。
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