誘惑

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真っ暗闇の中、私は止まらない涙の中必死に足掻いていた。 腰に跨る影の正体は分かっている。 シャワーから戻った私を背後から殴ったのも、多分…。 「拓海君…何で?何でこんな事っ…」 名前を呼ぶと拓海君が私を見下ろした。 「さあ。俺自身も分からない。…ただ、あいつがこれで幸せになれるなら、俺はそれで良い…。」 そう言った瞳がやけに寂しそうにうつる。 …拓海君…? 拓海君は私に跨ってはいるものの、何かをしようとはしていないようだった。 ただ私を抑えつける為に上に乗っている。 その方が正しい言い方だ。 だけど、それでも鎖で繋がれた腕はひどく痛み、やはり恐怖が襲ってくる。 「…あんたら、本気で愛し合ってんだな。」 「え…?」 突然ポツリと呟くから、思わず聞き返してしまった。 すると拓海君は手にした携帯を掲げ、悲しげに笑った。 そこには、『着信  茜』と表示されている。 「…あんたの旦那、あいつの誘惑に打ち勝ったらしい。」 「誘惑?」 「あんたの出番がない事を祈ってたんだけどな…行くぞ。」 鎖を外された私は、拓海君に抱えられ部屋の外に連れ出された。
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