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「…愛?愛なんて…私達は知らない…」
悲しそうに吐き出された茜さんの言葉に、海斗が息を吐いた。
「…説明してもらおうか。何故、ここへ来たか。」
震える茜さんの代わりに、拓海君が静かに口を開く。
「俺達は…二人とも施設で育ちました。」
「え?じゃあ…」
「…俺は物心つく前に親に捨てられ、茜は産まれてすぐに施設の前に捨てられていたんです。施設での虐待や学校のイジメにも耐え、施設を出てからも…茜は風俗で、俺は出張ホストをやって暮らしていたんです。二人で、必死に生きてきました。」
唇を噛み締めた拓海君の言葉に、胸が締め付けられた。
この二人がどんな辛い日々を送ってきたのか。
それは分からないけど、分からないからこそ余計に苦しい。
「そんなある日…こちらからの郵便物が間違ってうちに届いたんです。…近所だったからだとは思いますが。そこに書かれていた採用決定の内容を見て…」
「私がこの話しを拓海に持ちかけたのよ。」
拓海君の後を引き継ぐように茜さんが話しを続けた。
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