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ミーシャもそう思っている一人である。
ミーシャは手ぬぐいをつかむと、玄関を出て家の裏手に回った。万事に堅苦しい母は、家の者が井戸を使わず裏の流れで顔を洗うのははしたないと言って喜ばないけれども、ミーシャは晴れている日はつい外に引かれて岸に出る。父だって時々小川にやってきて顔を洗い、大声で近所の者と挨拶するのだから構わないだろうと思っていた。
ミーシャは父の家の養子で、母親が実父の妹――つまりは叔母なわけだが、どちらかと言うと、堅苦しい性格の母よりも血の繋がっていない父の方を愛していた。
ワジャ領でも特にヤシロ村は御馬乗り役を勤める二十石足らずの軽輩が固まっているので建物自体は小さいが、組屋敷がある場所が都から馬の足でも七日足らずほどもかかる辺境のためか、菜園を作っても土地は余るほどに広い。
御馬乗り役の軽輩といっても、父は王狼衆の一人で、もののふの中でも常に先陣を駆け抜け、敵陣を喰い破る最強の戦士である。
平時は城に立ち寄ることもないので、野袴かカルサンをはき、足元ははばき、わらじで固めて腕には脇盾に厚手の革手袋、背には矢が入った壷胡くいを背負った姿で粗末な門をくぐる。
中背だが、がっしりとしていて頼もしいとミーシャはいつも思っていた。王狼の教練が終わると、いつも父は王狼を世話するので、ミーシャは琵琶や笛のお稽古をしていようとも、縫い物をしていようとも、途中でほっぽって、必ず父についてゆく。
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