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「良い匂いだな。兄ちゃんにも食わせてくれれば良かったのに」
「別にプリンの匂い嗅がせに来たんじゃ無いわよ!」
ナックル気味に投げられた器は俺の股間に当たってころころと転がった。
うん、痛くない。
「兄ちゃんの股間にプリンの空容器なんか投げても、プリンは返ってこないぞ」
「ちがっ、た、たまたまよ!」
「股間というワードが出たら『たまたま』は使っちゃ駄目だろ。マナーがなってないなぁ」
「う、五月蝿いっ! というかそういう受け取り方する兄貴の方が変態よ!」
「まぁ本題に移ろうじゃないか。何やら胸に一物抱えてるみたいだし」
「その言い回しがムカつく!」
暫くぎゃーぎゃー騒ぐ妹は、俺の受け答えのレベルが違う事に打ちのめされ、溜め息をつきながら口を開いた。
「あたしのプリン食べたでしょ?」
「はぁ? この兄ちゃんが大の辛党だと知って聞いてるのか?」
「それもそう――って、辛党なら甘いもの食べないとは限らないじゃない!」
ばれたか。
俺は心の中で呟き、反論の糸口を探す。
「猫舌が熱いのを好まないのと一緒だよ」
「……そう、かな?」
口をついて出たよくわからない言い訳は、何故かすんなり妹に受け入れられた。
「それより、プリンなら戸棚の中に兄ちゃんの分があるから食っていいぞ?」
「え、良いの?」
「勿論。まったく、お前は幸せ者だな。こんな良い兄ちゃんを持って……羨ましいな、このっ」
「……うん」
心なしか、妹の頬は赤く。
……俺が食べたとは、口が裂けても言えない状態になってしまった。
「ありがとう、兄貴」
……まあ、妹の輝く笑顔が見れたから、万事オッケーということで……どすか?
「……あれ、ちょっと待って。あたしのプリンも戸棚に……」
「げっ」
「……この、馬鹿兄貴っ!!」
……世の中、悪は栄えないということで。
妹の平手は、俺の頬に綺麗な赤い印を残しましたとさ。
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