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「――というわけで、夏祭りに来てみたわよ」
「どういうわけか僕には分からないけどね」
嘆息し、浴衣姿の彼女に目をやる。
アップにした髪がお転婆度を上げていて、いつもの高飛車な雰囲気が一変、田舎の幼なじみみたいだ。
てか、田舎じゃないけど、幼なじみなのは確かだけど。
肝心な浴衣は、紺地に百合の柄が入っていて、夏に映える“艶”がある。
「何じろじろ見てんのよ」
……折角美人さを描写してやったのに、台なしになる位睨まれた。
「なんでも。それより、なんか食べようか」
「そうね。私、林檎飴が食べたい」
「……もしや、奢り?」
「むしろそれ以外の選択肢が知りたいわよ」
「……そっすか」
僕は薄っぺらい財布を取り出し、林檎飴とライフラインである硬貨と交換した。
「はい、どうぞ」
「遅いわよ。……っと、そろそろかしら」
何処からか懐中時計を取り出すと、いきなり僕の手を取って人込みを駆け抜け始めた。
「ちょ、こういうのって男がやるもんじゃ……」
「女々しいあんたにこんな事出来るわけないでしょ? いいから早くしなさい!」
「はいはい……」
全く、こいつの強引さは昔から変わってないなあ。
思えば、数年前も同じ様な事をしたような……。
その時になんかあった気もするけど……まぁ、いいか。
そんな事を考えていると、少し高台の、人気のない場所へと出ていた。
逆レイープだろうか。
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