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「着いたわよ」
「はぁ……」
林檎飴をくわえた彼女は、落下防止の柵に近付くと、僕を手招きした。
「ほっひほっひ! ははふひははひほ!!」
「大体分かったけど、物を口に入れながら喋んな」
呆れつつ隣に行くと、彼女はいきなり、僕の手を握った。
「……何?」
「…………」
ほんのり上気した彼女は、ちらちらと僕の顔を窺っている。
……何なんだ、一体。
「……約束。忘れたの?」
「……約束?」
はて、何の事やら。
「ほら、3年前にここで約束したじゃない!」
「ムスッとした顔で見られても、本当に思い出せないんだ」
「……だと思った。だってあんた、なんでこの夏祭りに来たのか分かってなかったしね」
嘆息し、だけど握った手にはしっかりと力を込める彼女。
若干、震えてる様な気がした。
「……3年前、私達はここで約束したの。3年後、気が変わってなきゃ、またここに来て――」
一瞬の煌めき。
次いで、どぉんと大きい音がした。
「……あーあ、間に合わなかった」
彼女は心底残念そうに呟く。
――そこで、僕は全てを思い出した。
脳内で記憶という名の火薬が一斉に爆発し、花を咲かせたが如く。
「『もし気が変わってなければ、ここでお互いに告白して、一緒に花火を見よう』。……そういや、僕が言い出した事だったね」
「……思い出したのね」
「あぁ。――因みに、僕はこの3年間、気が変わるなんて事はなかったよ」
「当然。もし心変わりしてたら、あんたを花火の筒に詰めてたわよ」
握った手に一層力を込め、彼女は僕に寄り掛かる。
――どぉんと、また爆発音が響いた。
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