19人が本棚に入れています
本棚に追加
友達に誘われて行ったアマチュアバンドのライブに彼はいた。
寡黙にベースを弾く彼は欲目ではなく一番に会場の目を引いていた。
もちろん私の目も。
スローモーションのように赤い髪が、揺れる。
自分の出番が終わった後、彼は観客席からぼんやりとステージを眺めていた。
「あ、ザクロくんだ」
「ザクロくん?」
「ほら、さっきベース弾いてた赤い髪の人。今日誘ってくれたのも彼なんだ。挨拶しに行こうよ」
はしゃぐ友達に手を引かれ、ビールに口をつけている彼の前に立つ。
「お、久しぶりじゃん。本当に来てくれたんだ」
「もちろんだよ、ザクロくんに誘われたんだから」
猫撫で声。
なんかあったな、この二人。
多少疎外感を感じながら、二人の会話を聞いていた。
「オトモダチ?」
不意に彼の視線がこちらに向けられる。
「そう、親友の鈴蘭。可愛い子でしょー」
なんて言ってるけど、目が冷たいよアナタ。
「ふぅん。じゃあスズちゃんだね。はじめまして」
あ、笑うと結構幼い顔になるんだ。
「はじめまして」
手と手が触れあって、思うより優しく握られた。
暑いのはきっと、夏のせいだ。
そして、心臓がドキドキと鳴るのはアルコールのせいなんだ。
最初のコメントを投稿しよう!