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「助っ人だったんだね、すごく上手だったからプロ目指してるのかと思った」
「あぁ、あのライブ?友達があのライブハウスでバーテンのバイトしててさ。ベースいなくて困ってるバンドがあるから助けてやれって言われて。俺なんかプロ目指せないよ」
煙草を置いているコンビニは近くにあった。
マルボロの赤。
煙草も赤なんだ、この人。
「スズちゃんは髪短いんだね、どうして?」
コンビニからの帰り道、唐突に言われた。
「んー、楽だし。短いのに慣れてるから」
「きっと長いのも似合うよ。せっかく綺麗な髪なんだから」
「そんなこと初めて言われた」
「そう?見る目無い奴ばっかりなんだ」
明日行く予定だった美容院の予約をキャンセルしようと、その時決意した。
「もしかして彼氏が短い髪を好きだとか?」
二階にある居酒屋への階段を登っている時に言われた。
私は、もう着いてしまうのかと落胆しているのを悟られない為にポーカーフェイスを装っていたのに、その質問に動揺してしまった。
「彼氏なんていない」
きっと今、すごく不細工な顔してる。
一足先に階段を登りきった彼は、まるで最初から決めていたかのように自然に、店の前の椅子に座って煙草に火を点けた。
目の前に立つ私と、正面から向き合う形になる。
「じゃあ、立候補しようかな」
後頭部に手を充てられる。
引き寄せるその手は、幼い笑顔に似つかわしくないくらい力強い。
キスは、赤いマルボロの味がした。
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