バイオリンの申し子

12/15
前へ
/23ページ
次へ
──あなたにとって、今、そしてこの先も大事にしていきたいものは何ですか? 「それはもちろん……」 そう言って彼はバイオリンケースからバイオリンを取り出して、顎当てに顎を当てて演奏の構えをする。 バイオリンケースからバイオリンを取り出して構えに入るまで、僅か十秒足らず。 年長のバイオリニストにも負けない、堂とした構えだった。 「僕からこれを取ったら僕じゃないですよ」 そして彼は私が聞いたことのない曲の一節を弾いた。 私は武器たちをポーチにしまい、立ち上がって彼に片手を出した。 彼は私も羨むその綺麗な両手で私の片手を包み込んだ。 「今日の演奏は私も聞いていくよ」 「本当ですか! なんか緊張してきましたよ」 「君らしい演奏してくれるだけで良いよ。 私はそれで十分だから」 「………いいえ、今日は僕は普段より頑張りたいと思います。 今日の僕の演奏に立ち会えたことを誇りにさせてあげますよ」 「期待してるよ」 私は空いた手で彼の右肩を軽く叩いてやった。 ………きっと、彼ならやってくれるだろう。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加