バイオリンの申し子

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私は関係者以外立ち入り禁止という札を一瞥して、そこに入った。 空調設備が整っていて、ちょうど良い気温になっている。 なんでも、楽器というものはかなり繊細な体質らしくて、気温や湿度でも影響してくるものらしい。 人間よりもデリケートだ。   廊下を歩くと、世界的に有名なアーティストをあちこちと見かける。 中には気さくに私に挨拶をしてくる人もいるので、私は無難に英語で挨拶を交わす。   しばらく歩いて、お目当ての部屋に着いた。 コンコンコンとノックをする。 あれ、これはトイレでのノックの仕方だっけ? ノックは二回だったろうか? そんなことを考えていると、ドアが開いた。 女性も羨む艶やかな黒髪をして、タキシードに身を包んだ少年が立っていた。 少年は私の姿を認めると年相応の笑顔を見せた。 「おはようございます、パスカルさん」 ──人間は考える葦なのだよ……って違うからね。 私の名前は神原 葵。 ただのライターさ。 「カッコ良くないですからね、葵さん。 僕の大切な客人ですしね。 ささっ、中へどうぞ」 悪気はないのだが軽く人が傷つく言葉を言って大げさに中へと案内する少年に苦笑し、私は中に導かれた。
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