バイオリンの申し子

4/15
前へ
/23ページ
次へ
「舞台に立って、スポットライトを浴びたその時に、世界は僕だけの物になったような気がするんだ」 少年の言葉を聞き流しながら、科学技術の躍進によって高性能化された録音装置を机に置き、メモ帳とペンを持って、これで私の武器は揃った。 臨戦態勢に入る。   「あれ、ライターとしては珍しく鉛筆を使うんだね」 ──時代についていけないだけだよ。 シャープペンシルという物は、何だか書いた気分にならなくってね。 「分かりますよ、その気持ち。 楽器というのも、やはり古いものの方が僕も好きだからね。 開拓、革命、戦争。 歴史の重みというものを、手に持って実感するよ」 どうやら自分の世界に入り込んでしまったらしい。 こうなった少年が元の世界に戻るには少し時間がかかる。 私は自前のお茶を飲んで喉の渇きを癒やした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加