バイオリンの申し子

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それにしても殺風景な部屋だ。 キャリーバッグが無造作に放置され、バイオリンケースが大事に机に置かれてるだけ。 これだけで、彼の人柄が分かりそうなものである。 ──さて、仕事に入りましょう。 おっと、別に身だしなみを整える必要はないよ。 気楽に普段通りにしてくれれば良いから。 「そそそ、そうだね! なに、大したことなんてないさ、ハハハッ!」 彼はなにを緊張しているんだろうか。 こんな質問に答えるだけのインタビューなんて、舞台に立つことよりも大したことないはずなのだが。 「いやー、何回もインタビューは受けるんですがね。 やっぱり、先輩にインタビューされると何だか落ち着かなくて」 ──大スターにそう言われるとは私も光栄だね。 ほら、缶コーヒーだけどあげるよ。 鞄から缶コーヒーを取り出して、プルダブを開けて彼に渡した。 彼はそれを大事そうに受け取り、ちびちびと飲み始めた。
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