白衣の魔術師

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井上はすぐに戻ってきた。 「はい。」 女性の前に2つ、ペットボトルが並べられた。 「ありがとう。」 ボソリと呟いた。 「感謝した。ありがとうって言った!」 「そ、それがどうしたんだよ。礼言ってなんか文句でもあんのか?」 「いや、べ、別に。」 井上はなんとなくニコニコしていた。 「今日、会社はどないしてん?」 「休み。別に休みがあってもなんもする事無いんやけどな。」 「そうなんや。どこの会社行ってるん?」 「不動産。でもそないに大したとことちゃうし、俺がやってるんは接客ちゃうし。なんせ、まだ一年目やもん。」 「そうなんや。」 「…あれ?」 井上がずっと止めることなかった箸をピタリと止めた。 「関西弁話してるん?」 「今ごろ?」 女性はクスリと笑って見せた。 「やっと笑ってくれた。今までずっとしかめっ面のままやったから。」 井上は本当に嬉しそうだった。 女性も笑顔が少しずつではあるが、見えてきた。 しかし、次の瞬間、思いがけないことが起きた。 「危ない!」 井上は女性の手によって押し倒された。 「いった…。何が起きたん?」 あまりに急な出来事に井上が辺りを見回してみると、井上の目の前には女性の腕、一本の白い針が刺さっていた。 「え、本間に?」 井上は今、目の前で起きていることがどうなっているか分からなかった。 「だ、大丈夫?」 井上が手を出すと、あの時の冷たい視線で井上を睨み付けた。 「来るな!死にたくなけりゃ帰れ!」 女性は刺さった針を無理やり抜くと、黒いコートを脱ぎ始めた。 そこには白い腕に赤々とした血が滴っている。 女性は歯を食い縛りながら、腕を抱え込んでいる。 「さっさと消え失せろ!」 冷たい視線は涙ながらに睨んでいる。 「無理や。このままここにほって置けへん。」 井上はハンカチで傷を軽く縛ると、怪我をしてない方の腕を強く握りしめて走っていった。井上の家に向かって。
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