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「は~。昨日の嵐はスゴかったな。」
予想外の晴れた空を見て、1人の男が呟いた。
「雷がなったときに彼女が『キャー』とかなんとか言って俺にくっついて来るからすかさず『大丈夫だよ。僕がついてるから。』何てな!かっけー。俺。あ、でもありきたりだな。…」
朝日の中妄想の世界に溺れていた。
やけに秒針の音が耳の中に響く。
時計を見ると7時半過ぎを示していた。
「やっべ!会社に遅れる!」
彼はドタバタと部屋中を駆け巡りながら支度をした。
ネクタイの緩みを閉めながら朝御飯のおにぎりをコンビニで買うと、さっさと走っていった。
水溜まりを避けながら走るが、そう簡単には行かしてくれない。避けきれずに思いっきり踏んでしまった。
「あーあ。大分濡れたな。べじょべじょじゃんかよ~(泣)」
泥だらけになった靴を振っているとすぐ横にある路地から視線を感じた。
「こんな所あったっけ?」
興味半分で中に入っていった。
そこに居たのは自分よりもっとべじょべじょになった女性だった。
「お、おい、君、大丈夫?どうしたんた?」
声をかけた彼は自分の目を疑った。
声に気づいた女性がふと顔を上げるとなんとも美しく、可愛らしい顔だが、左目には大きな傷が、その他にも多数傷跡が見られた。雨のせいで余計に痛々しく見える。
「その傷、どうしたんだ?」
女性の目は彼を殺すかのごとく、睨み付けた。
「ほっといてくれ。」
冷たかったのは目線だけではなく、言葉も冷たかった。
「ほ、ほっとけないよ。風邪引くから、せめて頭だけでも拭いとけよ。」
彼は一枚のタオルを渡した。
彼女は無言で取り上げ、拭き始めた。
「礼の一つや二つぐらい言えよな。そうじゃないと、社会は厳しいよ。」
「余計なお世話だ。」
一言吐き出すとタオルを投げ捨てた。
「ちょ、ちょっと…。あっ、昨日からここに要るなら、これ、食えよ。」
彼は彼女の前におにぎりをそっと置いた。
彼女は見向きもしなかった。
彼は仕方がないからそのまま去っていった。
大通りに出て気がついた。
「遅刻だ!」
彼は風のごとく走っていった。
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