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外にはもう太陽がなく、月が変わりに輝く11時。井上と石田は路地に向かって歩いていた。
大阪の夜はあまり夜でない。ビルの明かり、店先の明かりが第2の太陽のように輝いている。
こんな大阪だから昼間と変わらない華やかさがあった。
井上はふと立ち止まった。目線の先には細い路地があった。
そこには明かりが1つも無かった。
「ここ?」
「そうやで。」
「い、行くか!」
「なんや。怖がってんのんか。」
「ちゃ、ちゃうわ。ずべこべ言わず、行くで!」
石田は先にすたすた歩いていった。
井上はため息を一つ捨て去ってついていった。
そこはまるで大阪ではなかった。
「石田、ライター持ってへんか?」
「持ってへんよ。チャッカマンしか。」
「十分すぎるやろ!」
「でも二本あるからチャッカメンやな。」
「なにくだらん事言ってんねん。」
2人はチャッカマン(チャッカメン)の火を頼りに進んでいった。
すると石田の目の前にうずくまる人影が写った。
「あれか?」
石田がボソリと呟いた。
井上が後ろから覗き込む。
影だけでは誰だかよく分からない。
「多分な。」
石田はまた歩き始めた。
少しずつ姿が見えてきた。しかしうずくまっていては顔が見えない。
井上が誰か確認するためにそっと手を伸ばした。
すると、
「誰だ。」
少し低めの女の声がした。
「え、えっと、井上、裕介。」
出しかけた手を直しながら小さな声で呟いた。
「井上?」
「あ、あの、昨日、おにぎりを置いていった。」
「なんの用だ。」
女性は井上に顔を向けた。その左目は開かず、右目は心臓をえぐる様に睨み付けている。その様子を写し出す炎は微かに揺らめいていた。
「ギャー!」
2人同時に悲鳴を上げた。チャッカマンは2人の手を離れ、火を消した。
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