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立ち上がってからは二人とも微動だにしない。
「俺には休みも必要ない。――――もう、何も要らない」
『わたくしは、みんなが幸せであれば、それだけでいいですわ。
もう……何も要らない』
重なる記憶。脳裏に浮かぶは、力強く空を映す紅蓮の瞳。
(この子達は……ホントに、どこまでそっくりなんだろうね……)
皇帝はグリスが本当にリンから切り放した負の心だったんだな、と実感する。無意識に『だった』んだなと、過去形で。
愛娘の魂を持つ者。だから、愛娘と言ってもいい存在。
グリスに歩み寄り、銀灰の頭に優しく手を置いた。
「それじゃあ……行ってらっしゃい」
グリスは驚いたように目を見開くと、意地悪い笑みを見せた。
「それを言う相手は俺ではない。どこかにいる王子にでも言ってやるんだな」
今度は、皇帝が目を見開く番だった。
「君は何を……」
「王子は生きている。それも、比較的近くで」
頭に置かれた手をとり、グリスは転移してしまった。まるで自分で探せと言うように。
「ちょっ……もう。どういうことなんだ……。ん?誰だ!」
グリスと入れ替わりに、謁見の間の入口で人の気配が。
『不穏』。
皇帝は思った。とてつもなく嫌な予感……。
キィ、と控え目に扉が開くと、不穏の正体らしき人が入ってきた。
「ただいま帰りました」
目に写るは、絢爛な紅蓮。
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