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「リン……?」
小さく笑みを浮かべる癒しの紅蓮姫――リンが、いた。
皇帝は目を見張る。
「ほ、本当に、リンなのかい?」
嘘だと分かっているはずなのに、聞いた。行方をくらませた愛娘が目の前に、帰って来たと、口が震えた。
「はい」
「今までどこに……」
王座前の階段を降り、そこでようやく違和感に気づいた。
「ごめんなさい」
笑みを浮かべたり、申し訳なくシュンとしたりするだけで、まるでこっちに来ようとしない。
扉を背にしたまま、立っているのだ。
一度立ち止まって、怪我でもしたのかとよく観察してみると――
「リン……帰って来てくれたのは嬉しいが――――後ろに隠している鎌は、なんだい?」
「…………」
隠し切れず、ワンピースの裾から見え隠れした闇色の鎌を見つけた時、冷静さが帰ってきた。
と同時に、リンの表情が人が変わったように崩れた。
「鷹の目を誤魔かすのは難しいのね~」
リンにあらぬ話し方。
やれやれとため息をつきながら、後ろに隠した鎌をズルリと持ち上げる。
すっかり侵され、闇色に変わってしまった澄藍。抵抗を見せるかのように、時折刻まれたセユエの花が澄んだ水色や血のような赤に染まるが、すぐに呑まれる。
「カーリナ君……」
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