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すると、童は再び演目を吹きながら、道から屋根へ、屋根から柳へと飛び、舞ったという。
それはまさしく人ならざる者のようで、博雅はすっかりその姿に酔ってしまった。
演奏を終えた童は、博雅のすぐ目の前で立ち止まった。
博雅は童に、
何者なのか
誰の舎人(とねり※4)なのか
誰に笛をならったのか
と尋ねたが、童はこれに答えず、手の平を博雅に差し出した。
博雅は自分の持つ『朝影』を渡した。すると童は替わりに己の持つ笛を差し出した。
その笛は軽く、歌口の部分に葉が二つ彫られていた。童の音色は博雅が吹いてもやはり美しい音色だった。
童はそれを見て、己も『朝影』を吹き、朱雀門へと戻り出した。
博雅が慌てて追いかけ、朱雀門でかの者に名を問いたが、そこに居たのは童ではなく男が『朝影』を手に立っていた。
男は、
自分に名はなく、『朝影』が気に入ったから、しばらく借りる。替わりにその笛を貸す。
と言い、姿を消した。
その間際、博雅は笛の名を問いた。
『はふたつ』
声はそれきりで、童も男も博雅の前には現れなかった。
その後、博雅は笛の持ち主を探したが見つからず、しかも『葉二』は博雅以外の誰にも吹く事は叶わなかった。
その後、博雅は『葉二』に出来るだけ近付けようと、時間をかけ、その年の秋に一つの笛を作った。
歌口の部分に、紅葉を彫り、その笛に『紅葉(くれは)』と名付けた。
※1
宿直所…平安時代、宿直する役人達がいた所。
※2
誰何…何ものか推理すること
※3
小舎童…子供の舎人。
※4
舎人…平安時代、貴族や皇族に仕え、警備や雑用をしていた役職。
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