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…♪~… 「…美しい音色だ…」 演奏が終わると、楓は侍を見つめた。 「…若様…」 「ん?」 「これが、欲しいでしょうか?」 楓は、手の中の『紅葉』を、侍に差し出した。 「楽に通じていらっしゃる若様です。この『紅葉』…作った方はご存知でございましょう。」 侍は言葉に詰まった。 確かに欲しい。 『紅葉』の作は、平安時代の楽聖と名高い、源博雅である。 源博雅が仔鬼から譲り受けた笛、『葉二(はふたつ)』を手本に作られた、という。 元になった笛の『葉二』はさすがに鬼の笛、といったように妖しげで美しい音色であったが、源博雅以外の誰であろうと吹くことは叶わなかった、という。 偽物ではないであろう、その音色。 その生涯の中で、目にすることは叶わないと思っていたものが、そこにある。 「今の若様なら、その刀で私を切り捨てれば、この笛を奪う事はたやすいでしょう。」 本音を言えば、答えは当然…力づくでも奪いたい。 …だが、しかし。 「…しかしそれでは…旧来の武士がしてきた非道と何ら変わりはせん…。」 自分はそうならない。これは、自分で決めた事であり、友と父上との約束だから。 「…それでこそ、若様…」 楓はフッと笑うと、『紅葉』を腰元へ差し込んだ。 「若様、この笛はまだ貴方様の下へは渡りませぬ。」 「まだ、と申すか。ならば、いつ俺の手へ渡るというのだ。」 しばらくの沈黙。 先程までと変わらなく、木枯らしが吹きすさぶ。 「いつか…貴方様が新たな都を開く事がありますでしょう。その時にこそ…この笛をお探しください。」 楓は、若き侍の双眸を見つめる。 「この笛も、貴方様と巡り合うのを待っている事でしょう。…伊達政宗様。」 侍…若き伊達政宗にそう告げ、楓は戦場から姿を消した。
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