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「…む…さま……政宗様。」
声にゆっくりと目を開けた。
どうやら、うたた寝していたらしい。
仙台城の、自室の縁側で。
政宗を起こしたのは…
「お休みの所、申し訳ありません…お風邪を召されたら、愛姫様が悲しまれますゆえ…。」
「構わぬ…気遣い感謝する、小十郎。」
「いえ…。」
小さな頃から、政宗の傍に常に控えている片倉小十郎景綱(かげつな)であった。
懐かしい夢を見た。
あれは、初陣からすぐの事だったか。
秋の枯れ葉の匂いと、鉄臭い血の匂い、死臭。
そんな、不思議な空間の中で、確かに出会ったのだ。
あの巫女と、あの笛に。
城下の賑わいが風に乗って聞こえてくる。
政宗が開いた、仙台藩。あの巫女が言っていたように、今ならば、恐らく…。
中庭にある、紅葉が僅かに色付いている。
「…秋だな…」
「そうでございますね…」
―…この笛も貴方様と巡り合うのを…―
「…小十郎。」
「は…。」
「宗綱(むねつな)を、呼べ。」
「御意に。」
今や、歳老いたこの身体。
探すのは、若人(わこうど)に任せるとしよう。
序、了。
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