木の葉は深紅に染まり

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岩出山は、かつて政宗がその身を置いていた地である。 今は宗綱の兄であり、政宗の第二子の忠宗(ただむね)がそこに住んでいる。 「まぁ…まずは重長、お前を兄上の元へ連れ行くのが先だがな。」 「は。若に同伴していただき、某(それがし※1)も嬉しゅうございます。」 片倉重長は、今現在、片倉家跡取りとして最有力の男である。 大阪夏の陣において、病床に臥していた父に代わり奮戦し、『鬼の小十郎』の異名をとってきた男。 それがこの片倉重長という男だ。 宗綱が政宗から受けた命はいくつかある。 それは、宗綱が命を受けたあの日に戻る。 🍁 🍁 🍁 🍁 🍁 「失礼致します。」 「宗綱か…入れ。」 「は。」 父と子とは言え、宗綱はそう簡単には政宗に会うことは出来なかった。 全国屈指の大名、しかも実質、加賀百万石を越す石高を持ち、天下を治めていたかもしれない雄。それが宗綱の父、伊達政宗という男なのだ。 この日、父に会うのは久しぶりで、先日に催された能の時以来であった。 「お呼びでございましょうか、殿。」 「これ、宗綱。久しぶりに会うたのだ。公の場ではないのだ。殿、などと呼ぶでない。」 「あ…も、申し訳ありませぬ、父上…。」 「それでよい。」 宗綱はどこか、安堵したような、嬉しいような、こそばゆい気持ちになった。 と、言うのも。 宗綱は正室、愛姫の子とは言え、第五子。 長兄の秀宗(ひでむね)は、側室の子であった為、跡継ぎにはなれなかった。 伊達家の跡継ぎは、次兄の忠宗が最有力であり、他の子はたいてい、跡継ぎの家臣となるか、分家となるか、養子となるかに限定されていた。 そして、宗綱は第五子。 いずれ、どこかの大名の婿となるか、どうか、と思っていたし、何より父である政宗はほとんど無関心であろうと思っていたからだ。 ※1…自称の一つ。私や俺などと同じ。
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