木の葉は深紅に染まり

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「宗綱よ。お前にいくつか頼みがあるのだ。」 「頼み、でございますか?」 「うむ。まずは『鬼の子十郎』だ。」 「重長でございますか?」 「そうだ。かの者を岩出山に居る忠宗の元へ連れて行って貰いたい。」 「兄上の元へ?」 「重長はまだ若い。そして何より景綱自慢の息子。いずれ忠宗の役に立つだろう。」 宗綱と重長は小さな頃からの友人だった。歳も近く、父親達が仲が良かったこともあった。 宗綱よりも二つ年上の重長は、稽古の相手を勤めてくれたり、何事かの相談に乗ったりしてくれ、本当の兄弟のように育った仲である。 「某も重長には日頃から世話になっております。重長の出世は某の幸せ、ありがたく承ります。」 「うむ。お前ならそう言うと思ったぞ。重長には景綱が伝えておる。二人で話し合い、出立の準備を進めよ。」 「は。」 「して…ここからが本題じゃ。心して聞くのだ。」 「…は。」 政宗の顔が僅かに真剣なものに変わった。 宗綱も僅かに緊張する。 「宗綱よ。お前は楽が好きだったな?」 「は、ははっ…。父上によく教授していただいた為でございます。」 拍子抜けしてしまった。真剣な父の顔から、楽の話が飛び出すとは思わなかったからだ。 どこか隣国へ旅に出ろ、や婿養子の話がついにきたのか、などと予想していたのに。 「うむ。では、問おう。楽聖、博雅三位(はくがのさんみ※1)についてだ。」 「博雅三位…?」 「ある月夜の事だ。博雅三位は、自分でこしらえた笛を吹き、夜道を歩いていた…」 ※1…源博雅のこと。
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