プロローグ

2/10
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「はぁ、はぁ、はぁっ、はぁ、くっ」 少女は自分の華奢な足の膝に手を置いて、その荒げた呼吸を正そうとゆっくり深呼吸する。そろそろ相手も諦めてくれたのではないかと肩越しに後ろを振り返ってみれば、六人の黒いスーツに身を包んだ男達がこちらに向かってきている。 「まっ、まだ追っかけて来てますーっ!」 三キロも走れば追っ手を撒けるだろうという考えが甘かったみたいだ。時間はもう既に深夜2時を回ろうとしている所であり、こんな路地裏には勿論自分たち以外は人っ子一人いない。まだ少しだけ息が整っていない彼女は、周りに人気が無いのを確認すると追っ手の方に向き直った。 「すーっふーぅ。本当は、こんな事、生身の人間にするのは気が引けるのですが、この際致し方ありませーん!」 ばっ、とおもむろに前へと右腕を突き出すとバチッ、バチッ、バチッと青白い光にその腕が包まれはじめた。あまり光りの無い路地裏に綺麗な明かりが灯る。しかしながら綺麗なバラに棘が在るように、その綺麗な光りに触れてしまえば瞬時に消し炭になってしまう。 「んなっ!?」 今まで走っていた追っ手達は、その光景を見て一斉に足を止める。 「や、やばいぞ、あれは」 追っ手の中の一人が怯えながら声を出す。目の前に電気を腕に纏いながら敵意を剥き出している人間がいれば、いくら相手が女性だからといっても恐怖感を抱いてしまうのは道理である。 「あなた達を傷つけるのは本意ではありませんが、これ以上追いかけて来るのでしたら……」 バチバチバチ 威嚇とばかりに腕の電気を放電させる。今までの光りがさらに明るくなり、さながら昼間のようだ。 「くそ!仕方ない、退くぞ」 口では仕方ないと残念がってはいるが、逃げる姿は死に物狂いという感じだ。いかに必死なのかが手に取るようにわかる。 追っ手が逃げ出したのを確認して、腕の電気を解き再び膝に手をつく。だがそれは呼吸を整えるためではない。 「うぅっ、バッテリーが切れそうですぅー。どこか充電出来る所さがさないとです」 気だるそうに体をお越しながらそう言うと、ゆっくりと深夜の路地裏を歩き出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!