1310人が本棚に入れています
本棚に追加
***
翌日。
朝餉を食べ終えた沖田は自室で着替えを済ませ、道場に向かっていた。
庭に面する廊下を通っていると、掃き掃除をしている鶴乃の背中が目に入った。
「おはようございます、鶴乃」
突然の声にびくりとする背中。
「沖田さん」
おはようございます、と振り返った彼女は言った。
「稽古ですか?」
袴姿の沖田を見て、鶴乃が言う。
「はい。今日は、稽古に出ようと思いまして」
「いつも出ていないんですか」
『今日は』の部分を強調して言った沖田に、鶴乃は苦笑する。
沖田が笑って誤魔化していると、鶴乃が何かを思い出したようだった。
「あの……朝餉、どうでしたか?
お紺さん達と一緒に作ったんですけど……味付けとか、変わってませんでしたか?」
不安げな表情をする鶴乃。
「いつもと変わらず、おいしかったですよ」
笑顔で言った沖田の言葉に、鶴乃はよかった、と安心したように呟く。
「そうだ、鶴乃……」
「あ、そろそろ行かないといけませんよね」
何かを言いかけた沖田を遮り、鶴乃が笑顔で手を振る。
「稽古、頑張ってくださいね」
「……行ってきます」
一瞬不満そうに顔を歪めた沖田だったが、鶴乃の笑顔に答えるように、笑顔で手を振って道場へと向かった。
.
最初のコメントを投稿しよう!