15/53
前へ
/196ページ
次へ
障子に人影が映る。 「山南副長、入ってもよろしいですか?」 凛とした声に、どうぞ、と一言返事をした山南は布団に入っていた上半身を起こした。 「お薬をお持ちしました」 盆を持って入ってきた鶴乃が山南のそばに座る。 「すみませんね、迷惑をかけてしまって。 このところ、どうも調子が悪くて…」 枕元に置いていた眼鏡をかけながら、山南は苦笑いを浮かべる。 「きっと疲れていらっしゃるんですよ」 薬包を渡しながら鶴乃が言った。 「とにかく今は休養が一番です」 「しかし……皆に申し訳ないですよ」 差し出されたそれを受け取ろうとした手を止めて、山南は言った。 「副長とあろうものが、自分の体調管理も出来ず、隊務もこなせないなんて…… 皆の足を引っ張っている自分が情けなくてね」 山南は俯いた。 視線の先には、軽く握った手。 彼はさらに力を込めた。 今朝切ったばかりの爪が、掌に食い込む。 .
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1310人が本棚に入れています
本棚に追加