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パァー…ン
永倉と彦次郎が互いに斬りかかった時。
双方の竹刀が二本の腕に遮られた。
「……!」
鋭い目で睨み付けられ、驚く彦次郎。
「……何してやがる」
一つに束ねられた長髪と羽織の黒が、さらに威圧感を感じさせる。
「土方さん……」
永倉は思わずそう呟き、そして慌てて竹刀を下ろした。
名前を呼ばれた土方は、永倉を一瞥する。
まさに、蛇に睨まれた蛙。
永倉は頭を下げる。
「もっ……申し訳ありませ」
ゴンッ
永倉の頭上に降ってきたのは、鈍い音と唸る声。
何が起こったのかと顔を上げると、拳を握った土方と頭を抱える彦次郎の姿が目に入った。
「いっ……たいじゃないですかっ!」
うっすらと涙を浮かべる彦次郎。
「これくらい当たり前だ!
稽古の邪魔しやがって……」
「邪魔ではありません!
自分はここに入隊するために……」
「まだそんなこと言ってやがったのか!」
突然言い合いを始めた二人に、周囲は唖然とする。
そんな様子に気付くことなく、二人はぎゃあぎゃあと騒いでいる。
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