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 携帯電話は便利になりすぎた。既に「電話」の域を超え、「端末」と称するのが相応しい。  所謂「ケータイ依存性」はつまりは先んじて存在した「ネット依存性」と何ら変わりはない。  松村純子、38歳。  半年後には中学生になる長男と小学校四年生の次男を抱える主婦。  夫は建築関係の仕事をしており、ある意味「職人」ではある。特殊な分野の仕事であるため、年に数回ほど4、5日程度の出張で家を空ける。  その僅かな時間は純子の心が自由になれる貴重な時間。勿論、子供がいる以上、完全なる自由ではないのだが。  鬱病。  ある者に言わせればそれは甘えなのだとか。言い換えれば「我が儘病」だとか。  だが、純子は思う。  そう言えるお前こそが我慢する事を知らない我が儘病なのだと。  お前は脚の切断を余儀なくされた人間に健常者より早く走れと言うのか、と。  純子のいつから始まったのかもはっきりとしない病は、週に(時には隔週になってしまうのが僅かな不満だ)一度、優しいドクターに会いに行く事をやんわりと義務付ける。  しかしその義務すら純子には解放される時間。時には病院へ診察を受けに行くのだとは思えない、足取り軽い様子で出かけもした。
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