21人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい」
役人が後ろの警官に指示を出し、直径三十センチ程の太い金属のリングを取り出させた。
そして警官は僕に近寄り、それを首にはめようとして来た。僕が警官の腕を払い、床にリングが落ちる。
役人が僕を睨んでいる。悪寒が背中を駆け上がり、払った僕の手が震え出す。僕はその手を逆の手で握りしめ、震えを止めた。
「いけませんね、不安な新人パイロット候補に余計なプレッシャーを与えては。
地球安全保障を脅かしたとして死刑にしますよ?」
役人は警官に言い放ったが、それは同時に、いや間接的に僕に浴びせられた言葉なのは明白だ、従わなければ死刑。
「分かりました、分かりましたから……」
僕がそう言うと、蛇の眼光が開かれ、怪しく輝いた。
「では一週間後、お迎えに上がりますので」
彼らは僕の首にリングを付け、去って行った。去り際に、このリングは爆弾だと告げられた。
別に逃げる気は無かったけど、チープなアイデアだなと思った。
*
「あ、母さん? 僕」
僕は独り暮らしだから、まず両親に報告をした。
「知ってる……家にもあなたが選ばれたってハガキが来たもの、たったハガキ一枚……」
それに続く言葉は、母さんの嗚咽に飲まれ、聞こえ無い。それから母さんが落ち着きを取り戻すまで、はじめて聞いた母さんの泣き声に僕は聞き入った。
「ごめんね、一番辛いのはあなたなのに。
それで家に帰る余裕はあるの?」
「ごめん、こっちの整理もあるからさ。
荷物、そっちに送るけど良いよね?」
母さんはうんうんと、声を震わせる。
僕と母さんは、その日飽きるまで話した。そんなに母さんと話したのはいつ以来だったかな。
翌日、僕は荷物を整理しはじめた。
整理して分かったけど、僕の荷物はそんなに無い。
せいぜい服と、本とパソコン位か。ニートにしては少ないんじゃないかなと、僕は満足し、荷物を送る打ち合わせに、また母さんに電話をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!