優しい人

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 ホワイトボードまでつかつかと戻った桐咲さんはギロリと周囲を見渡した。 「かぁ~、どいつもこいつも集合って意味わかってんのか?」 私は桐咲さんに倣って周りを見渡す。 ふむ、これはどうしたことだ。 普段から協調性など皆無と言えど仮にも風紀委員だ、あと二人か三人くらいはいてもいいはずだが。 何故か私しかいないではないか。 がらんとした室内に二人の男、これはなかなか腐女子が歓びそうな展開ではないか。 「流鏑馬! てめぇまで帰るとか抜かすんじゃねぇだろうな?」 鋭いな。 私が考える前にツッコむ辺り桐咲さんの腕前が推し量れるだろう。 「……して、本日の検案とは如何様なもので?」 質問に質問で返すとはいささか礼を失しているかもしれないが、あまり畏まっても仕方がない。 興奮していた桐咲さんは虚をつかれたのか頭をポリポリと掻いてやや落ち着いてから紙を取り出した。 パンツの後ろポケットから出た紙はぐしゃぐしゃになっており、やや手間取りながら桐咲さんは紙を伸ばす。 「あー、先日から続く通り魔事件についてらしいな。何でも『関係者』がこの学校にいるらしい」 いきなり面倒な事件を引き合いに出してきた。 更に言えばこれは警察の管轄と考えるのが妥当だろう。 私のやる気のない様子に辟易したような表情を浮かべ、桐咲さんは続きを読み上げた。 「こいつがくそ面倒なことに、俺らの領域に踏み込んだらしい」 ……すごく、嫌な予感がする。 予感なんて、はっきり言って最も信用ならないかつ当てにしてはいけない物のことなど引用すらしたくはないが、それでも嫌な予感がすると言わせてもらおう。 「つーわけで、他に誰もいないし、てめぇが『適任』だろうからな」 そうして、私はこの後に全くもって適任だったと感じられない事件の担当になってしまった。 そうそう、言い忘れていたが一つこれだけは教えておこう。 我々の組織の名は獅子紙学園風紀委員、またの名を裏風紀取締役という。 そう、私は裏社会に渦巻く怪奇や異端を取り扱うスペシャリストなの一人なのだ。
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