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翌日、私はいつもと同じように早朝の弓道場にいた。
服装は羽織袴に地下足袋、少々気合いを入れた恰好をしている。
弓に弦を張り、矢をつがい、弓を引く。
一連の動作を流れる様に、かつ姿勢を整え、全てに細心の注意をはらう。
集中……周りの空気がはりつめピリピリと感じてきた。
一呼吸、息を吐き出し、出し切って吸う前の刹那に弦を離す。
空気を切り裂く音がしてやがて矢が的に刺さる音がする。
「……悪くない」
私は音使いでも殺人一賊の者でもないが、この言葉を口癖としている。
そして実際、悪くないのである。
私はこの一射に三十分ほどの時間を費やす。
気持ちを落ち着け、感覚を養う。
ふむ、弓道部の朝練を邪魔するのもなんだ。そろそろ行こうか、と考えて全てを丁寧にしまう。
片付けを終え、弓道場を後にしようとしたとき、入り口に人影が見えた。
弓道部かと思ったが次の一言でそれがただ単なる勘違いであると知らされた。
「流鏑馬先輩、お話があります」
これが本当の事件の始まりだ。
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