6人が本棚に入れています
本棚に追加
私はその人物を知っていた。
いや、正確には何度か話したことがある程度で、知っているという程ではないのかもしれない。
彼の名前は、霧生貴也。
我が校の弓道部の部員であり、一年生ながらその実力は県下でも五本の指に入るとまで言われている。
「流鏑馬先輩、お話が……」
深く頭を下げて私に話があると繰り返す。
しんと静まり返った弓道場に頭を下げた後輩と先輩。
この様相では私がいじめているように見える。
「頭など下げなくても私は君の話を聞くから」
まずは、頭を上げてくれないかと私は続けた。
とりあえずもう朝練の時間となり他の部員が来る頃とのことで話は昼休みに屋上で、ということになった。
私はその事を了承し、やや急ぎながら弓道場を後にした。
入り口から出る時に、霧生から大声で礼を言われた。
私は手だけを挙げてそれに応え、戸を閉めた。
少々行儀は悪かったが、あまり気にせず私は生徒用ロッカーに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!