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未だ生徒の姿も見えぬ廊下を私は早足で抜ける。
今現在の廊下は静まり返ってはいるが、あと数分もすれば喧騒に包まれるであろう。
なるべくならばこの姿を大勢に見られたくはない。
『まずいな……本当に時間がない』
見られたくない故に、早足が校則に反した小走りになる。
そして廊下の角を曲がる。
迂闊だった、校則を守るべきだった。
どむっという鈍い音と鳩尾に鋭い痛みが走る。
「……っ!!」
空気が漏れ出ると同時に息が出来なくなる。
無言でしゃがみこみ、痛む体を庇う。
「……大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
私は嫌な予感に汗が止まらなくなる。
逃げだしたい、どうしようか、よし、逃げよう。
しかし、痛めた鳩尾がずぐんと疼き、私の動きを鈍らせる。
「あたしつい鳩尾に一発いれちゃいましたけど……生きてます?」
確信犯か……
私はゆっくりと立ち上がり声の主に語りかける。
「姫ちゃん、出会い頭に殴るのを百歩譲って親愛の行為だとしても手加減してくれ」
目の前にてへへと舌を出してはにかむ女の子姫鳥馬猫(ひめとりまねこ)が立っていた。
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