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袴についた埃を叩き落としながら、痛む腹をさする。
ぐぅ、心の底から叫びたいほど鳩尾が痛い。
若干恨めしそうな目をしながら姫ちゃんを見やり、しゃがれた声で話かけた。
「あー、急いでるからこれで」
事実急いでるのもあったが、急速にこの場から離れたいという気持ちを率直にぶつける。
ニコニコと笑顔を崩さず立ち塞がる姫ちゃん。
左足を前に出した。
すっと左に移動する。
左足を戻し、右足を前に出した。
右側へと体重をシフトして私の前に立ち塞がる。
激しく嫌な予感がする。
いや、これは予感ではない、確信だ!
身体能力では姫ちゃんの足下にも及ばない私は観念して話を聞く姿勢を見せた。
「わかった、わかったから袴の裾をその汚い上履きで踏むのをやめてくれ」
姫ちゃんは再びえへへーと笑い、ついてこいと言うように私に背を向けた。
…………
ガラガラと引き戸を開け、とある教室に入った。
そこには桐咲教諭と火元先輩が待っていた。
私の顔を見て桐咲教諭がニヤリと笑い
「やっと来た……どうしたその顔は?」
きょとんとした顔に変わる。
私はいえとだけ言って顔を拭った。
「なぁに、姫ちゃんが背を向ける度に逃げようとして袴の裾でも踏まれて無様に転んだだけでしょ」
くつくつと笑いながら、まるで見てきたかのように説明する火元先輩。
うっさい、くそ、だから来たくなかったんだ。
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