其の壱

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あっけらかんと言い切る杳冥の自信は一体どこから来ているのか、まったくもって謎である。しかし、彼は平然とした顔で先を続けた。 「あんさんの中にはな、時と精神、空間を司る力……つまり刻神の力があんねん。今からワイがちぃっとしごいてある程度コントロールできるようにしたるから安心せぇ」 誰もが見惚れずにはいられない笑顔。だが時勝はその裏に危険な匂いを感じ取っていた。 ――絶対ちょっとじゃない!! そして時勝の直感は残念ながら的中することになり、杳冥から合格点が出るまで幾度となく死にそうな目に遭うことになる。 ――5年後。 「駄目……かぁ」 時勝はもはや何度目になるかわからない溜息を吐きながら呟いた。 あれから戦い方も身に付けたし、力もある程度は理解して使いこなせるようになった。 なのに。 時勝は未だに杳冥の言うところの《他の意志》を見つけられずにいる。 (本当に、いるのかな) 時勝はすとんと腰を下ろし目を閉じ呼吸を整え、手を握り締めてからゆっくりと意識を拡げる。 それは、力を揮えるようになった時から毎日幾度となく繰り返されてきた鍛錬の一環であり彼の日課。 (届いて……!!) 時を、空間を超える力は、ついにその《刻》を迎えることとなった。 「……っあぁ!」 遥か彼方にあるその意識を捉えた途端、背中を疾(はし)る戦慄と同時に映像が頭に流れ込んでくる。鮮烈で凛とした光を放つ黄色のヴィジョンの持ち主は――朱に塗れて大地に伏し、今にも意識を手放そうとしていた。 「杳冥、さん……見つけた!!」 行かなくちゃ。 衝動的に立ち上がり声をかけてから、呼んだ相手が出かけていることに気付く。 しかし彼が人外であることは先刻承知、自分の声が届くと信じて時勝は相手の意識を手繰(たぐ)りながら走り出した。 「……っ、まどろっこしい!」 いつまでも縮まらない距離感に、つい苛立つ。 空間なんて、なくなればいいのに。今の彼には、ただの邪魔な存在でしかない。 ――空間なんか、時間なんか、切り裂いてしまえればすぐにでもたどり着けるのに。 そう思った刹那、右手にずしりとした重みが加わった。同時にバランスを崩して転ぶ。 「うぁ!」 目を転じると、一振りの鎌が少し離れたところに転がっていた。 柄の長さはだいたい身の丈、刃の根元に琥珀があしらわれたそれは、時勝を誘うように光を放つ。   
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