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しかし、息を吐く間もなく事態は進行していくわけで。
「動くなや」
敵意を察知した時勝が立ち上がろうとするのと杳冥がそれを引き留めるのは同時だった。
「今はまだ時期尚早や。おとなしゅうここはワイに任しと、き!」
喋っている間に仕込んだのであろう力が言葉が紡ぎ終わるのと同時に全方位に放たれる。無作為な一撃は弾幕代わり、続いて繰り出されたものこそが本命打。
「狂気怨來円舞(マディ〓マディロンド)」
中に宿る狂気を誘発して相手を《壊す》物騒極まりない一撃を繰り出しておいて平然としている杳冥は、いよいよもって尋常ではない。
眠り続ける白虎を庇いながら、時勝は顔色を俄かに悪くした。
「っち、取りこぼしとるやと?……まぁえぇ、近接(ガチ)でも勝てるからかまへんわ」
「おこがましい事を言ってくれるな、守護者ごときが」
「わぁ、白い虎ですって。殺すの勿体ない」
そんな時勝の様子を全く気にする様子のない杳冥のぼやきに、反駁(はんばく)する声と状況を綺麗に無視した声がして2つの影が地面に現れ半瞬で人の形を形成する。
臨戦態勢に入ろうとする時勝をやんわり制して、杳冥はうっすらと皮肉な笑みを浮かべた。
「どっちがほざいとんのや、大概にせんやったらマジで泣かすで?」
空間が震えそうな程に激しい殺意が周りを支配する。
「アナタはどうでもいいの、後ろの2人を――彼らの中の《石》を頂戴」
「そういう寝言は」
影が、ぎゅるりとねじ曲がって無数の棘を構築、音もなく敵を貫いた。
「1万年と2千年早いで」
そう締めた杳冥の頬に、一拍置いて一条の傷が走る。
「……ほぉ、口だけやないん。面白い、十全や」
にぃ、と桁外れた美貌が不気味な笑みを浮かべる。女の方は一撃で消せたが、男の方は与しやすい相手ではなかったらしい。
彼の腕にまとわりつく氷を冷めた目で一瞥した杳冥は、それでも愉しげな声を上げた。
傷から流れる血をそのままに一歩踏み出す。
先手は杳冥。ノーモーションで繰り出した拳が盾代わりの氷をぶち抜いた。相手の反対の手が杳冥の喉を強襲するがそれは闇の盾に阻まれる。
「炭素か」
「ダイヤが同素系やで、硬度舐めんな」
一瞬どころか半瞬で攻守が入れ替わる。
時勝は切り込むタイミングを失ってはらはらと見守るしかできずにいる。――と、その時。
「ふにゃあ?」
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