其の壱

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「捜すの手こずったでぇ、ホンマ。……おぅそこのあんさん、とっととケツまくって帰りや」 漆黒が――正確には黒ずくめの誰かが、喋った。 「我を阻むなら容赦せぬ」 「ほざけ三下。ワイとあんさんじゃ格がちゃうわい」 途端にざわり、と空気が騒ぐ。 「その顔、まさか貴さ「じゃかぁしい、ワイがキレる前に消えぇ」 神速の一撃。黒ずくめの人物が再び地面に足を着けたのと同時に、男は大地に全身を叩きつけられていた。 「退け」 凄まじいプレッシャーが彼から放たれる。背中越しにこちらを鋭く睨む気配がしたが、それは程なくして消えた。 「大丈夫か?」 その声につられて、顔を上げる。 「っ!」 思わず息が止まった。あまりの美貌に、声が出ない。 「やれやれ、これやから従兄殿と同じ顔はイヤなんや……しゃあないけどな」 くす、と笑う顔は精悍さと甘さを違和感なく溶け込ませたもので、時勝を赤面させるのに充分な威力を持ち合わせていた。 「あの」 何とか声を振り絞る。 「うん?」 「ありがとうございました」 「っはははは、律儀なやっちゃなぁ!ええてええて、ワイかてワイの都合であんさん助けたんやさかい」 そう言って、彼はけらけらと笑いを響かせた。 その開けっぴろげな笑顔を見ていると――いきなり視界が回転した。 押し倒されたと気付くまでに数秒、その間に前を全開にされる。 「ちょ、何するんですか?!」 「暴れんなて、わからんくなるやん。別に取って喰ったりせんからおとなしくしとき。下まで剥かれたぁないやろ?」 まぁ比較的好みのタイプやけど、と少々どころかかなり恐ろしいセリフを吐きつつじたばたする時勝を押さえ込みつつ彼は真剣な顔で時勝の全身を眺めた。 しばらくして、こてん、と首を傾げる。 「っかしぃなぁ、さっきはちゃんと感じたのに……」 「あの、何の話で「黙り、口塞ぐで?」 押し倒しておいて説明の一つもないのはいかがなものか。さすがの時勝もかちんときた。 「ちゃんと!説明して下さい!」 ぱきん。 何かが割れるような音。 時勝は目をぱちくりさせた。 何も変わらない。 ――否、あらゆるものが静止していた。こちらを見下ろす美形はもとより、風の一つもそよぐ気配がない。 「…………え?」 動けるのは、自分だけ。時勝は文字通りに錯乱した。 「何でぇぇ?!」    
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