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「っ、何でもクソもあるかぁぁ!」
轟。
空間が揺らいだ。同時に時勝の身体が宙を舞って、落っこちる。
「痛い!酷いじゃないですか!」
年長者相手に怒鳴りつける事などしたことはないが、今回ばかりは黙っていられない。乱れた服もそのままに、時勝は盛大に噛みついた。
もっともすぎる時勝の言分に、彼ははた、と我に返って頷く。
「…………せやな、この奇策師たるワイが何という失態や。耄碌(もうろく)してんとちゃうか」
うんうんと頷き、彼はひらりと手を振った。
一瞬で時勝の服が元に戻る。
「ワイ、杳冥。坊は何て言うん?」
切株に典雅な仕草で腰を下ろした杳冥は黒曜石の双眸で時勝を眺めた。
「時勝、と言います」
ひゅ、と息を呑む音。一瞬杳冥の表情が強張った。
「……なるほど、なぁ。そういうことか」
今度はあからさまに面白そうな顔をして、杳冥は時勝を見つめた。
対する時勝は果てしなく居心地の悪い顔になる。
「とりあえず、落ち着いて聞きや。――あんさん、生命狙われとるんやから」
沈黙。たっぷり3分は経ってから、時勝は杳冥に聞き返した。
「さっきの人にですか?」
「アレはヒトやあらへん。《魔》や。あんさんの中の《琥珀》を狙っとる」
「でもボクには思い当たる節がない」
「んなこた先刻承知や、覚醒する前に狩らな厄介な話になるんやから」
「話が、見えません」
杳冥は軽く眉を寄せて迷った素振りを見せたが、長い長い溜息を吐いてからそれに応えた。
「あんさんの中にある《琥珀》には、神の意志が宿っとる」
「……そんなこと、あるわけないじゃないですか。今までボクはそんなの自覚したこともない」
「ほんなら、さっきのはどないに説明するんや?どう考えてもおどれの力ちゃうやろがい」
杳冥の口調が変わった。感情を斬り捨てた、冷徹な声。時勝はぞくりと戦慄(おのの)いた。
「何なら今すぐバラして出してやってもええんやで?」
視線に籠もる殺意を、時勝は蒼白になりながら受け止めた。
「……そら冗談や。あんさんにはワイを手伝ってもらいたいからなぁ」
ふわ、と空気が弛む。時勝は思わず肩で息を吐いた。
「手伝う?」
「けどな、楽やないで?どっかにいてる残り10人捜してもらわな」
「…………え?」
「まぁあんさんの《琥珀》が道標になるよって、大丈夫やろけど」
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