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 獅子宮すばる、という女を、僕はよく知らない。  入学した去年から同じクラスなのだが、僕は彼女と喋った事がない。そして、喋っているところを見た事もなかった。  ただ、いつも黙って本を読んでいるのだ。ジャンルはピンからキリまである。彼女にとって、それが本の形を成しているならば、それでいいのかもしれない。 「わかりません」  それは、彼女が唯一口を開く時に聞ける台詞だ。本当にわからない生徒を侮辱しているのか。  彼女は優秀だ。  天才か秀才かは不明。  だが、賢いのは明白。  それは、定期テストの度に張り出される成績優秀者一覧の、上の方を見ればわかることだろう。  ──そして、それだけ。  僕が知ることは、それだけしかなかった。  美しく可憐な少女、深窓の令嬢とか一部の生徒に持て囃されている彼女について知っている事は、それだけだ。  だから、気になる事がある。  それはどうしようもなく気になる事。  僕一人は決して解決できない、厄介事。 「え? 獅子宮すばるさんの事? うーん……そうだなあ、中学の頃より〝冷たくなった〟って聞いてるけど……」 「あれ、葛西は獅子宮と中学が一緒だったのか?」 「うん。──とは言っても、私と獅子宮さんは赤の他人っていう所なんだけどね」 「ふうん……」  飽く迄中学が一緒だっただけってことか。  中学時代から葛西は委員長だったのかな。やっぱそうだったんだろうな。  だってほら。  委員長だし。  葛西はなんたって委員長の中の委員長だし(これは私立新宮高校の生徒にしかわからないと思う)。  葛西白亜。  彼女は微笑む。  〝天使〟の如く。 「それにしても、獅子宮さんに興味を持つなんてね」 「いや、違う。すっげえ有り得ない光景を見ちまったものでな……」  困ったものだ。  
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