出逢い

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此処まで来て迷っていても仕方がない。会わなければ、始まりも終わりもないのだから。  角を曲がると前方のビルの入口付近に男が立っていた。角を曲がった私に気づいたみたいで歩み寄ってくる。黒っぽいスーツを着ている。意外だった。スラリとした長身で精悍な体形をしている。頭に描いていたイメージとまるで違うタイプの男との距離が縮まっていく。  彼の方から声をかけてきた。 「こんばんわ、間違ってたらごめんなさい。メグだよね」  私は一瞬言葉に詰まってしまい、ただ頷いた。彼の声が快活というか、爽やかで、予想とはかなり声も顔立ちも違っている。もっと暗めのタイプを想像していた。 「今夜は強引に誘い出してしまってごめん。来てもらえるとは思ってなかったから嬉しかった。このビルの四階のダイニングバーなんだ。後三十分ほどで二回目の演奏が始まるから、上に上がろうか」  まるで始めて会ったとは思えない親近感で接してくる。なんだか彼のペースにはまってしまいそうだった。 音楽とワインとエスニック料理、そして彼の軽妙な話術…… 心を潤すには充分すぎるほどの空間と時間。  メールでのやりとりから想像していた彼とは、全くかけ離れているというか、今までに出逢った事がないタイプだ。うがった見方をするなら、遊び慣れている、そんな気がした。
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