カルマの坂:物語

7/7
前へ
/11ページ
次へ
「ここか…」 『影』は言う。 そこは、高木の屋敷。 何も言わず、『風』は屋敷に入った。 剣を振り回しながら。 警備員が気付く。 「なんだ、君は!止りな…うわッ!」 途端、『風』は剣を振り回す。 気付いたら、それは『物』になっていた。 『影』は呟く。 「………残酷ぅ…」 『風』はもう、鬼と化していた。 『風』は無我夢中で剣を振り回す。 周りの『人』を『物』に変えながら。 ……さて、どれくらいか経って。 やっと『風』の目の前に少女、凜が現れた。 『風』は言う。 「凜!助けに来た!」 勿論、少女が少年を知るはずが無い。 しかし、返事は意外なものだった。 「こんばんは、高木様」 その言葉には、心が無かった。 そして、少年の目に、一筋の涙が。 『風』と呼ばれた少年は、悲しみを怒りに換え、剣を振るった。 もう、壊れてしまった少女目掛けて。 「はあっ…はあっ…」 ようやく『影』が追い付いた。 「はえぇよ…『風』…」 言い掛け、絶句した。 『影』の目の前には『風』が。 しかし、『影』の知っている『風』では無く。 そこにいる『風』は。 切った少女を腕に抱き、泣いていた。 号泣という言葉では表せないほど、泣いていた。 無論、その声が響かない筈も無く。 間も無く『風』、『影』は捕まった。 現れた高木が言う。 「コソ泥め!クソ野郎が!」 罵声を浴びせるが、 『風』、『影』は何も言わず。 ただ、自らの審判を待っていた。 「ふん!もう良い!裁け!」 二人の名も無い少年は、裁判を静かに聞いていた。 しかし、彼らの脳裏には、全く痛みなど感じなかった。 ただ、空腹だけを覚えていた。 二人は暗い、監獄のような所に連れて行かれ。 「…覚悟はいいな。」 審判を下す者が言う。 無論、頷く。 それから数分後― 二人の少年は『人』から『物』になった。 二人の死によって、この物語の幕が閉じる。 これはある時代、ある場所の物語―
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加