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狂気と熱気が渦巻く最前線の僅か後方で響いたその叫び声は、魔族の兵士達一人一人に異様な程によく届いた。
そしてその叫びを聞いた者は総じてその方向に向き直り、手に持つ武器を構えて一瞬にしてその男を包囲した。
ピタッ
沈黙が続く。
数では圧倒的に優勢。
しかし誰一人として動かない。
あと一歩、地を強く蹴り、手に持つ槍を突けば間違いなくその男を串刺しにすることが出来る。
それでも動かない動けない。
【雷炎の鬼人】
我らが宿敵である【エデン】三元帥が一人であり、この戦争の最重要ターゲットである。
もしこの男を討つことができればその武功は計り知れない。
だがそれでも誰一人して動かない。
何故なら彼らは誤ってしまっていたからだ。
彼らは知っていた。
その男の危険度を…
数々の戦場で生まれたその男の伝説を…
「雷炎飛脚 渦雷」
ザシャン!!
雷光と共にその場を包囲していた兵士達の首が跳ぶ。
彼らは知っていたはずだった。
それなのに!
それなのに踏み込んでしまっていたのだ。
鬼人の血牙のその先に……
「ひっ…!」
紙一重で牙から逃れた兵士達は思わず後退りする。
ドササ!
今まで自分達が立っていた場所に首を跳ねられた兵士達の死体が倒れてくる。
それに一瞬、視線が奪われ再び鬼人を捉えようとした時には…
ズバァン!!
二度目の雷鳴と共に地を抉った鬼人の突撃に巻き込まれ、その兵士も肉塊へと変わった。
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