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わずか眼前数センチを研ぎ澄まされた刃が通過する。一歩間違えば目を、いや命をも奪われていたかもしれない一閃。
「俺を殺す気か!」
すんでのところで命拾いした俺は躊躇なく刃を振り抜いた相手を睨みつけた。
口元にどこか満足そうな笑みを浮かべ、抜き身の剣を片手に立つ女。
リリス=ノーストゥスク。
「やっぱり避けられるじゃない。私の“婚約者”としては及第点ね」
「テストのつもりかよ。そんなことで殺されかけてたまるか!」
背中を流れる嫌な汗を無理矢理に意識から除外して、次に来るであろう攻撃に備える。
「私は自分より弱い男は認めないの。だから……証明しなさい」
リリスは鮮やかな金髪をたなびかせながら再び仕掛けてきた。
(くそっ、なんだってこんなことに……)
繰り出される攻撃を必死に回避しながら俺は突然降り懸かってきた自分の不幸を呪った。
* * * * *
鬱蒼と生い茂る木々の中を一つの大きな影が進む。額に六角形のクリスタルが浮かぶ隆々とした巨体を持つ四足歩行の生物だ。
(……よし、この位置からなら狙える)
クロス=ラインフォードは木を盾にして獲物を見据えると、背負っていた弓を手に取る。
矢はない。だが、構わずに弦を引く。
バチッ……バチバチッ……
すると右手から溢れ出すように電気が流れ、やがて矢の形を成した。
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