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グレンには妻と娘がいて、名前はそれぞれメイサとサナリィ。リィとはサナリィの愛称だ。
グレンは普段から娘を甘やかしてばかりの親馬鹿だが、夫婦仲も良く、理想的な家庭を築いている。
「簡単に、というならやっぱり食べ物ですか。この辺りはケイヌの木が群生してますからね、“アレ”が採れますよ」
「ケイヌと言えば高級食材のゴセクガニか! ……いやしかし、そう簡単に見つかるのか?」
粘っこく、しかし糖分と蛋白を多分に含んだ樹液を出すケイヌの木の根本には、鋼鉄のような甲羅を持つゴセクガニが集まる。
殻を割るのは苦労するもののその身は旨味が凝縮されていて、食べ応えのある美味として珍重されていた。
「少量なら。これでも山には慣れてますからね。巣を見つけるくらいわけないですよ」
「ほぉ、坊ちゃん貴族かと思っていたがなかなかどうしてやるじゃないか」
「……昔の話です。今はハンターに身を窶したただの子供ですよ」
おどけてみせるものの、口角が下がってしまう。その話題を出されるのは好きではなかった。
元貴族。
確かにそうだ。クロスは一年前まで貴族だった。
しかしとある事件をきっかけに親と反目し、結果勘当という形で家を追われたのだ。
「おっと、この話題は無しだったな。スマン」
「いえ。それよりさっさとゴセクガニを探しましょう。たまにはお互い家族孝行といきましょうよ」
強引に話題を変え、クロスは経験と勘を頼りに畦道を進む。
再びこの話題を蒸し返されることはなかった。
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