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ウサギ男は私に気付いていないのか…まったく微動だにせずその場に立っている。私の足は未だに歩みを止めない。
しかし、後数十センチという所で…ウサギ男はやっと気付いたのかゆっくりと頭を動かしこちらを向いた。
吸い込まれるような2つの紅い瞳が…こちらを向いている。でも、その瞳は何だか無機質で…哀しい感じがする。
その2つの紅い瞳の中には私が写る。何だか、前にも…こんなこと…?…いや、そんなはずない。こんなウサギ男は知らないし…紅い瞳の知り合いも居ない…はず。
でも…何だか懐かしい気がする。そう、こんな無機質な瞳じゃなくて…優しい、暖かい紅い瞳の彼に、楽しそうな私と…モウヒトリ……。
…ッ!違う、違うの!居ないの…。そんなの知らない。私、知らない…!きっと思い違いだ。…帰ろう。早く…帰ろう。
…でも、帰っても…きっとまた1人なんだろうな…。
そう、頭の中に一瞬だけ過った。その瞬間…ウサギ男の目が少し見開いた…ような気がした。そして、次に感じたのは落下する感じ。
慌てて上を見上げたら…まあるい穴があって…そこから覗くのはさっきまで私が居た、見慣れた街並み。でも、そこには…ウサギ男はもう居なかった――。
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