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「待ち人」
佐藤は通学の為に毎日家と駅を往復している。
その道沿いに古ぼけたバス停がある。
それは彼が生まれるよりまえからすでに廃線になっていたが、停留所名が読めないほど錆び付いた今でもやはり錆び付いた一脚のベンチとともに撤去もされずに置かれていた。
ある冬の日のこと。
佐藤はいつものように1日を過ごし辺りが暗くなり星が見え始めた頃に駅に着いた。
いつもの歩き馴れた道である彼はゆったりとした足取りで家へと向かった。
道なりに歩いてゆくと例のバス停が見えてくる。毎日必ず二回は見るものであるからいつも通りであるなら特に気にはしない。
だがその日は違っていた。見ると廃線になったバス停に人がいる。
それも一人二人がベンチに座っているのではなく、ベンチに五人ほどがぎっちりと腰掛けそのまわりにも何人かの人が立っている。
人々は年齢も服装もバラバラでお互いに知り合いという感じではない。
季節は冬、人々は厚手のコートを羽織っていたりはめたりしており中にはカイロやホットのペットボトルで手を暖めている人もいる
その光景はまさに「バス停でバスを待っている」ものであった。
普通のバス停では当たり前な光景だがそこは自分が生まれる前から廃線になっている場所である。
あまりに突飛な光景にしばらく面食らっていた佐藤だったが、しばらく眺めていても特に何があるわけでもない。
そうなってくると佐藤はその人々がなにか休憩に使っているのだろうと思いまた家に向けて歩き始めた。
ちょうどその集団を追い越したあたりであった。
佐藤の足下にカラコロと空になったペットボトルが転がってきて足に当たった。えっと思い振り返るとそこにはいつもの錆び付いた看板とベンチだけがあった。
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