第一章 夢の終わり

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感情の振り幅は、大きければ大きい程、すぐに入れ代わってしまうらしい。 怒りが恐怖心に勝った。 正確には、スタミナの限界に逃げる力が残っていないため、腹が据わった、というべきか。 ――窮鼠猫を噛むってもんよ。 私は反転して、飛び掛かる一匹の大野良犬の右眼を狙って突進した。 捨て身の一撃。 全身全霊の攻撃だからこそ、視野が狭くなる。 左側から一匹の大野良犬が突進する姿を捉えたときには、もう手遅れだった。 左半身を頭突きされる。 「ぐぁッ!!?」 不意を付かれた私は思い切り弾き飛ばされる。 地面に叩き付けられ、転がりながら泥の水溜まりにノーガードで突っ込んだ。 衝撃が大き過ぎて息が出来ない。 泥水が鼻と口から侵入してくる。 反動でむせ返ると、身体の痛みが全身を駆け抜け、痺れたように全く動かない。 激痛に眩暈を覚えたのは初めてだった。 瞼が重く、今にも閉じてしまいそうな瞳に、ゆっくりと近付く大野良犬達の姿が映る。 ――こんな最期はありえないよ―― 意識を手放した刹那、大野良犬達とは違う獣の咆哮と、何か金属がぶつかるような固い音が、耳に届いた気がした。
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