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「今から話すことをよく聞いてください。時が満ちました。もうこの地に留まることは出来ません。今より貴女と私は…」
兄の言葉が途切れた。
兄の表情が固くなる。
私は兄の視線の先を追った。
部屋中の壁が溶けている。
コーンに乗ったアイスクリームが常温放置でもされているように。
兄は突如として私の手を引き、部屋の中央部へと逃げた。
二人を中心に、球状に空間が崩れていく。
非現実的な体験に、私は兄の手を握ることしか出来ない。
ずるりとゆっくり落ちていく私の部屋だったモノは、どんどん下に落ちていく。
不思議なことに私と兄は、落下せずに立ったままだ。
『これは、あの巨大犬に追われる前の…』
溶けた部屋の外は暗闇である。
暗闇には底がなかった。
暗闇には何もなかった。
私も溶けてしまうのだろうか?
私も闇に消えてしまうのだろうか?
「……ど、どうしよう、これからどうなるの?」
今にも泣き出しそうな私の頬を、兄は優しく、しっかりと包み込んだ。
「大丈夫です。私が必ずお守りします」
いつもと変わらない兄の微笑みが心強い。
私はただ兄の言葉を信じて頷くことしか出来なかった。
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