第一章 夢の終わり

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「今から話すことをよく聞いてください。時が満ちました。もうこの地に留まることは出来ません。今より貴女と私は…」 兄の言葉が途切れた。 兄の表情が固くなる。 私は兄の視線の先を追った。 部屋中の壁が溶けている。 コーンに乗ったアイスクリームが常温放置でもされているように。 兄は突如として私の手を引き、部屋の中央部へと逃げた。 二人を中心に、球状に空間が崩れていく。 非現実的な体験に、私は兄の手を握ることしか出来ない。 ずるりとゆっくり落ちていく私の部屋だったモノは、どんどん下に落ちていく。 不思議なことに私と兄は、落下せずに立ったままだ。 『これは、あの巨大犬に追われる前の…』 溶けた部屋の外は暗闇である。 暗闇には底がなかった。 暗闇には何もなかった。 私も溶けてしまうのだろうか? 私も闇に消えてしまうのだろうか? 「……ど、どうしよう、これからどうなるの?」 今にも泣き出しそうな私の頬を、兄は優しく、しっかりと包み込んだ。 「大丈夫です。私が必ずお守りします」 いつもと変わらない兄の微笑みが心強い。 私はただ兄の言葉を信じて頷くことしか出来なかった。
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