序章

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大門を潜ると橋を正面にして、視界いっぱいに泉が広がった。 風に揺れる白い花を付けた蓮があちこちに散らばり、黒い水面を彩っている。 その時、月光が差した。 瞬く間に泉は白一色へと塗り替えられ、その中心に浮かぶ小さな社を映し出す。 満月の光りを浴びて淡く輝く八角形の社。 その長い白い木の橋は大門と社を結んでいた。 神々しさに目を細めながら張り詰めた空気を裂いて、少年は橋を駆ける。 「…ハア…ハア…………ハア……」 遂に、辿り着いた。 社の前で少年は息を整える。 私は少年を信頼しきって、何時の間にか、眠っていた。 社もとても静かだった。 火の手も無く、血の臭いも無い。 未だ脅威に晒されていないようだ。 ひとまず胸を撫で下ろした少年は私を起こさないように、丁寧に懐から紙を取り出すと、社の扉に挟み込んだ。 紙が淡い光りを発して扉を開く。 それは鍵だった。 幾重にも護られた『道』への、標。 許しを得た身体を、社から溢れた月光が包む……
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